こんにちは NANDEMO編集部 あまたつです!
こんなに考えさせられる漫画は、未だかつて読んだことがありません。主人公の言葉に自然とみんなが引き込まれます。この主人公が、何か話し出すとドキドキします。必殺技を出す訳でもなく、特殊能力で飛び回るわけでもありません。ただ、淡々と話すだけなのにです。その理由をぜひご紹介いたします。
【目次】
『ミステリと言う勿れ』 田村由美
2018年に発売され、現在7巻まで発売中の人気本格ミステリー。作者は、数多くの作品を世に出しているSF漫画の名手と呼ばれる田村由美さん。今までの作品には
等があります。
その人気漫画家でいらっしゃる田村由美さんが全く違うアプローチで制作したと言われる本作品は、ただのミステリーと呼ぶのはもったいない程の作品に仕上がっています。
主人公紹介
主人公の名前は久能整(くのう・ととのう)。まず名前からくせの強さがにじみ出ています。「ととのう」なんて付けられたら、自分だったらがっかりですし、いじめられないか心配になってしまいます。
この久能整は大学生。一見、親の仕送りで生活するごく普通の大学生に見えますが、とんでもない逸材です。こんなに天然パーマの人は、あまりいないでしょう。
とんでもなく冷静で、突然自分が殺人事件の容疑者にされ、刑事達に詰め寄られても、何も動じません。美容室や歯医者の予約の事を気にしたり、作っていたカレーの事を考えたり、まさに大物としか言いようがありません。
彼に、刑事は詰め寄ります。
「どんなに虚言を尽くしても、真実は一つなんだからな!」
すると彼は驚きます。
「ええ~。どこかのドラマみたいなセリフを言う人がいるなんて」
コナン君の決め台詞の完全否定です。私も、子供の頃からこのセリフがすりこまれていますから、はぁ?です。真実はいつも一つ!ですよ。しかし、この久能整さんは言います。
「真実は一つなんかじゃないですよ」
「何を言ってるんだ、真実が2つも3つもあったらおかしいだろが!」
すると、彼はこう説明します。例えば、AとBという人がいて、AはBをいつもいじめています。Bにとって真実はAからいじめられている。でもAにとってBとはただ、じゃれあっているだけだという真実。BがAから階段でつき落とされた場合、Bにとっての真実は、いじめられておとされたであり、Aにとってはただぶつかっただけ。
「人は主観でしか、ものを見られない。それが正しいとしか言えない。ここに一部始終を目撃した人がいたとして、さらに違う印象を持つかもしれない」
もう哲学入ってます。刑事にこんな反論する大学生がいるでしょうか。
「AにはAの真実があり、BにはBの真実が全てだ。だから、真実は1つじゃない。人の数だけあるんですよ。でも、事実は一つです。警察が調べるのはそこです。人の真実なんかじゃない。真実なんてあやふやなものにとらわれるから、えん罪事件とか起こすのでは?」
「お前は一体なんの話しをしてるんだ」
「僕はやってません」
すごすぎます。僕はやってませんまでたどり着くまででにこんな哲学問答みたいな事をやってのけます。真実を見ないで、事実をみろと。完全にソクラテスの域に達しています。こんなやりとりが、ずーっと続きます。
ストーリー紹介
とにかく絶好調にしゃべりたおします。あまり、場面の展開はなく、基本は主人公と、相手をする登場人物の会話でストーリーは進みます。主人公は彼女も友達もいない設定ですが、うなずけます。ある意味シャーロックホームズに似ています。ただ、ホームズのように、謎解きを楽しんでいるわけではなく、ただ、詰め寄る刑事たちの弱さを言い当てていく。その、淡々とした様子は、進化したホームズと言えるかもしれません。ぜんぜん声をあらげたりしません。そして、繰り返される会話の中で、だんだんと刑事達に信頼されていく様子は、気持ちよささえ感じてしまいます。
自分にかけられてしまった殺人容疑も、取り調べ室の中で、記憶力と会話だけで解決に導きます。とにかく、これから、たくさんの事件巻き込まれる事になるのですが、基本全然動じません。
魅力にあふれた言葉たち
ストーリーの大半をしめるのは、彼の言葉です。アラフォーの私が、当たり前と思っていることがが、当たり前じゃないことに気づかされます。
「人を殺しちゃいけないってことはない」
彼の言葉です。一見殺人鬼の言葉のようにも聞こえますが、彼は続けます。
「ひとたび戦時下となれば、いきなりOKになるんですよ。今は、平和で秩序ある安定した社会を作る為に便宜上そうなっているだけです。」
こんな事考えた事もありませんでしたが、確かにその通り。言葉もありません。久能整が何を話すのか楽しみでしょうがなくなります。
まとめ
作者である田村由美さんのすごさとしか言いようがありません。とにかく、この主人公久能整の言葉は、きっと田村さんの言葉なんじゃないかと思ってしまします。
友達がいないという久能整ですが、本人の意思にかかわらず、彼の言葉を求めて人が集まってきます。そして、同じように事件に巻き込まれます。事件解決よりも、彼がどんな言葉を発するのか、そっちの方が期待してしまします。ぜひ、お読みください!
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。